3.糖尿病の食事療法
糖尿病治療の中心は「食事療法」です
糖尿病治療の三本柱は <食事療法> <運動療法> <薬物療法>です。この中で、すべての糖尿病治療で必須なのが<食事療法>です。
この <食事療法>の基本は、摂取エネルギーを適正に抑え、バランスのとれた食事を1日3食規則正しく摂ることで、適正体重を維持して血糖値を健康な人と同じ状態で安定させ、合併症への移行を防ぐことです。
食事は1日3食を決まった時間にとりましょう
決まった時間に食事をしていると、胃はそのリズムに順応して消化酵素の働きもよくなり、消化がスムーズに行われます。
また1日2食だと、食事と食事の間が長くなるので、その間のエネルギーを確保するためにインスリンの分泌が活発になり、脂肪を蓄えやすくなるのです。お腹がペコペコになるので、1食あたりの食事量も増えてしまうというのも、よくある話です。
小腸と大腸の働きに注目しましょう(消化吸収と発酵・吸収)
吸収とは
消化酵素によって糖質が分解され、小腸で吸収されることで、ヒトが食物からエネルギーを得ることです。
吸収とは
大腸の中にいる腸内細菌によって、小腸で消化・吸収されなかった糖質がいろいろな形に変えられ、吸収されることで、ヒトが食物からエネルギーを得ることです。
このように、私たちが食物からエネルギーを得る場所は小腸と大腸の2つの臓器からということがわかってきました。
ここで大切なのは小腸と大腸では、エネルギーを得る方法が大きく異なっていることです。従って、現在では糖質のカロリー <エネルギー>は小腸での消化・吸収と大腸での発酵・吸収を足し合わせて計算していきます。それぞれの特徴は右図のとおりです。
食事療法で使用される「還元麦芽糖」の働きをご存じですか?
「還元麦芽糖」はトウモロコシなどのでんぷんからつくられる、砂糖よりも低カロリーの甘味料で、すっきりした甘さが特長です。糖尿病の食事療法では、長年にわたり「還元麦芽糖」が使用され続けています。
小腸での消化・吸収がほとんどありません
小腸での消化・吸収で得られるエネルギーは単糖の形で吸収されます。
したがって糖尿病で最も気をつけなければならない“血糖値”や“インスリン分泌”はこの小腸での消化・吸収に大きく影響されます。
ところが
“還元麦芽糖”は小腸ではほとんど消化・吸収されないため、血糖値やインスリン分泌への影響があまりありません。
※出典:鴨井ら、栄養学雑誌 30(4)153-158 1972より引用改変
大腸で発酵・吸収されます
小腸で消化・吸収されなかった“還元麦芽糖”は大腸に移動し、そこで腸内細菌によって分解され、さまざまな形に変換(発酵)されます。その代表的なものが短鎖脂肪酸です。
短鎖脂肪酸とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸であり、これらは大腸から吸収されてエネルギーになります。しかしこのエネルギーは、糖尿病で注意する必要のある“血糖値”や“インスリン分泌”にはほとんど影響がなく、太る原因になりにくいのです。
以上のような理由から“還元麦芽糖”は安心して糖尿病の <食事療法>に長年にわたり使用されているのです。
糖尿病と血糖値
甘い物の代表として砂糖を例にとると、摂取した砂糖は小腸の消化酵素によってブドウ糖と果糖に分解され、速やかに吸収されます。吸収されたブドウ糖は血液中に取り込まれて血糖値を上げます。私たちが食事をして満腹感を感じるのは、一定以上に血糖値が上がると脳が「もうお腹いっぱいです」と信号を出すからです。
ここで高くなった血糖値を下げるのがインスリンです。ところが糖尿病の人は、このインスリンの働きが健康な人に比べて悪いため、血糖値がすぐには下がりにくくなっています。
さらに、 余分なブドウ糖は肝臓で脂肪に変えられ体脂肪となり肥満の原因になります。このように糖尿病の人にとって、糖分を余分に摂ってしまうと、血糖値を上げたり肥満の原因になったりするため、砂糖を代表とする甘い物が糖尿病の敵と昔からいわれてきたのです。